衰えない音楽記憶



子どもの頃、夏になると毎日通った川に、訪れる機会がありました。


土手に座っていると、トワ・エ・モワの『或る日突然』が、それこそ突然、頭の中に浮かんできたのです。


当時流行っていたその曲を口ずさんでいると、その頃の出来事がこと細かく思い出され、とても驚くことになりました。






なぜ、音楽に、半世紀近い昔の記憶が結びついているのでしょうか? 


調べたところ、マックス・プランク研究所のJörn-Henrik Jacobsenらが興味深い研究をしていることがわかりました。


それによれば、たとえば、アルツハイマー病になってほとんどの記憶が失われても、音楽記憶はあまり失われず、昔、好きだった音楽を思い出したり、新しい音楽を記憶できたりするそうです。


それは、ほかの記憶機能にかかわる領域が衰えても、音楽記憶にかかわる領域が比較的衰えを見せないからなのです。


音楽記憶を思い出している時、fMRIを使ってどの脳領域が活性化しているか調べたところ、もっとも活性化するのが、前補足運動野と前帯状回の一部(caudal anterior cingulate gyrus)でした。


音楽を記憶としてエンコーディングするこの領域は、一般的にアルツハイマー病によってダメージを受ける領域とは異なるところにあります。


アルツハイマー病になって失われるほかのタイプの記憶と違い、音楽記憶は長く保護されるということです。


しかも、長く生き残るこの領域は、計画、評価、タスクスィッチ、意思決定、学習など高次の認知機能にかかわる場所でもあったのです。


つまり、昔の音楽を思い出すことが、こういった高次の認知機能を刺激する可能性を示唆しています。


また、音楽に結びついているエピソードを思い出すことで、ほかの記憶機能も刺激されるそうです。


アメリカなどでは、アルツハイマー病の人に昔好きだった音楽を聴かせて認知力を回復させる試みが始まっていて、近い将来には、アルツハイマー病の治療に音楽が応用されることになるだろうと考えられています。



参照)Why musical memory can be preserved in advanced Alzheimer’s disease(PDFが開きます)