脳によい食べ物(脂肪編)〜脂肪を変えると脳が変わる


わたしたちの脳は脂肪でできています。


水分を除いた脳の60%を脂肪が占めているからです。


男性の場合、体脂肪率は15〜20%が適正であり、30%を超えると脂肪が多すぎる、つまり肥満といわれます。


半分以上が脂肪でできている脳は、体のほかの部分と比べると脂肪が占める割合がとても大きい器官といえます。


わたしたちの体は、食事から摂った脂肪を、ほぼそのまま体内の脂肪の質に反映していく性質があり、それは、脳も同じです。


脳細胞は代謝が激しいので、常に細胞が生まれ変わっています。


そのため、よけい、毎日の食事で摂った脂肪がそのまま脳の脂肪になっていきます。


つまり、ふだん、どのような脂肪を摂るかによって、脳の質が変化していくということです。


脳によい脂肪を摂っていると健康的な脳になり、脳によくない脂肪を摂っていると、不健康な脳になっていくのです。


それでは、どんな脂肪を摂ったらよいのでしょうか?

神経細胞間の情報伝達をスムーズにするDHA


最初に意識したいのがオメガ3です。


オメガ3には、DHA(Docosahexaenoic acid、ドコサヘキサエン酸)、EPA(Eicosapentaenoic acid、エイコサペンタエン酸)、αリノレン酸(Alpha-linolenic acid、アルファ-リノレン酸)の3種類があります。


このなかで、とくに、DHAが、脳の働きに大きな影響をもたらします。


実際、健康的でよく働く脳には、大量のDHAが存在していることがわかっています。


なぜ、DHAなのでしょうか?


それは、DHAが神経細胞間のコミュニケーション能力をスムーズにするからです。


神経細胞間のコミュニケーションは、神経伝達物質が、ある神経細胞から別の神経細胞へ移動することで行われています。


その舞台となるのが、神経繊維の先端にあるシナプスと呼ばれる隙間です。

シナプス図
シナプス図


上の図の赤色部分と青色部分は、それぞれ、別の神経細胞をあらわしています。


赤の神経細胞(神経繊維)を伝わってきた電気信号が先端のシナプスに到達すると、神経繊維を伝わってきた電気信号が、ここで、いったん、神経伝達物質という物質に変わります。


物質となってシナプスという隙間を超え、青の神経細胞に情報を伝えるのです。


そのため、赤の神経細胞は神経伝達物質をうまく発射し、青の神経細胞は、その神経伝達物質をうまくキャッチしなければなりません。


オメガ3脂肪酸が脳によい脂肪酸と言われるのは、この神経伝達物質のやり取りがうまくいくようになるからです。


DHAは流動性をもった脂肪酸なので、これが多いと細胞膜にぷよぷよとした柔軟性が生まれます。


それによって、赤の神経細胞は、スムーズに、また、すばやく神経伝達物質を出すことができるようになります。


青の神経細胞は、飛んできた神経伝達物質を微調整しながらうまくキャッチできるようになるのです。


シナプスにおいて情報交換をしている細胞膜には、もともと、体内のどの部分よりも多くのDHAが含まれていますが、このように、DHAは、よく機能するシナプスを作るために欠かせない材料といえます。


DHAには、神経繊維の外側を覆っている脂肪(ミエリン)に柔軟性をもたらし、神経細胞を伝わる電気シグナルの流れをスムーズにする働きもあります。


脳内DHA濃度は、脳の働きだけでなく、気分にも影響する


残念ながら、わたしたちの体はDHAを作り出すことができません。


そのため、食事から取り入れるしかないのですが、DHAが欠乏した食事が続くと、飽和脂肪酸などが代役を務めるようになります。


飽和脂肪酸は、硬さがある脂肪酸です。


細胞膜をじょうぶにするためにはある程度必要ですが、DHAが少なくなって飽和脂肪酸が多くなりすぎたシナプスは、情報のやり取りがうまくできなくなります。


情報伝達が滞るようになるのです。


スウェーデンの研究では、アルツハイマー患者の脳内のDHA濃度が、同年齢の健常な人より少ないことがわかっています。


また、DHA濃度が低い大人は、気分が落ち込んだり、怒りっぽくなったり、気分の変動が激しくなったり、自閉症などにつながっていったりするリスクが高くなっていきます。


過去100年におけるうつ病の増加はDHAの減少に関係すると考えられているほどです。


DHAの脳内濃度を高める食べ物


体が作ることができないDHAは、食べ物を通じて取り込むしかありません。


しかし、意識して摂っていけば、細胞膜やミエリンを健全な状態に変え、脳の状態をよくすることができます。


さば、ぶり、さんま、しゃけ、あじ、いわし、にしん、たら、まぐろなど、脂がのった魚がブレインフードと呼ばれるのは、このDHAが豊富だからです。


理想的には、これらの魚120gを週3回食べることが勧められています。


これら魚介類からDHAを抽出したオイルはスーパーなどでもよく見かけます。


最近、DHAやEPAを摂る上で注目を集めているのがクリルオイルです。


クリル(南極オキアミ)By Øystein Paulsen - MAR-ECO, CC 表示-継承 3.0, Link
クリル(南極オキアミ)By Øystein Paulsen – MAR-ECO, CC 表示-継承 3.0, Link


クリルオイルは、南極オキアミという動物プランクトンから抽出されるオイルで、南極で獲れるために、水銀、PCB、重金属などの汚染物質の影響を受けにくいという利点があります。


また、食物連鎖の下にいるので、汚染物質が生物濃縮されないという点でも安心できます。










DHA供給源としての、αリノレン酸


DHAの供給源としてはαリノレン酸もあります。


αリノレン酸を摂取すると、体内でゆっくりとDHAとEPA(脳内でDHAに変換される)に変化していきます。


αリノレン酸が多く含まれるのは、なんといってもフラックスシードオイル(アマニ油)で、その53%がαリノレン酸です。


フラックスシード
フラックスシード


スーパーフードとして注目を集めているチアシードには30%、かぼちゃの種子には15%、なたねには10%、くるみには5%のαリノレン酸が含まれています。


ケール、コラード、チャード、パセリなど、葉緑素が豊富な緑色野菜は、葉緑体の中にαリノレン酸を含んでいます。


これら、ナッツ、種子、緑黄色野菜などからもαリノレン酸由来のDHAが摂取できますが、αリノレン酸からDHAやEPAへの変換率は10~15%ほど。


そのため、厳格なベジタリアンはDHA濃度が低くなりがちであることが知られています。


魚、魚油、クリルオイルがすぐれているのは、αリノレン酸由来のDHAと比べ、十~数十倍のDHAを直接摂取できるからです。


ベジタリアンでDHAを十分に摂りたいなら、αリノレン酸の絶対量が多いフラックスシードオイルです。


1日1回大さじ1杯を食事と一緒に摂ることがすすめられています。


フラックスシードオイルは酸化しやすいので、低温加工されたもので、酸素や光に当てずに、常に冷蔵保存する必要があります。


神経細胞の酸化を防ぐ一価不飽和脂肪酸


一価不飽和脂肪酸も脳によい脂肪です。


一価不飽和脂肪酸は、オリーブオイル、サフラワー油、なたね油、ナッツ類(マカデミア、アーモンド、カシュー、ピスタチオ)、アボカドなどに含まれています。


オリーブの木
オリーブの木

オリーブオイル
オリーブオイル


シナプスにある細胞膜にはDHAが多いというお話をしましたが、DHAは、構造上とても酸化しやすい性質を持っています。


また、脳は酸素を大量に消費していて、肺から取り入れた酸素の、実に20%もの量を消費しています。


脳の重量は、全体重のおよそ2%しかないので、重量に対する酸素消費量は膨大なものです。


酸素を燃やすと効率的にエネルギーを得られるので、わたしたちの細胞は、酸素を使ってエネルギーを作り出すようになりましたが、酸素は使うと必ず活性酸素を生み出します。


そして、酸化の原因になります。


すべての病気の8〜9割の原因が酸化だといわれていますが、脳も例外ではありません。


脳が酸化すると、神経細胞のDNAが傷ついてその構造や機能性が変化し、情報伝達がうまくできなくなります。


酸化によって、アルツハイマー病の主要な原因となる、アミロイドβというタンパク質の産生が強く促されることも知られています。


抗酸化物質が多い一価不飽和脂肪酸が脳の脂肪の材料に使われると、活性酸素による酸化の害を低減することが期待できます。


飽和脂肪酸〜肉類は適度に摂ろう


脳のために、いきすぎた摂取を控えたいのが飽和脂肪酸です。


飽和脂肪酸が多く含まれているのが、牛肉、豚肉、鶏肉、卵、バター、チーズなどの動物性食品です。


神経伝達物質をやり取りする細胞膜にもある程度の固さが必要なので、飽和脂肪酸も神経細胞にとって欠かせない脂肪酸です。


肉や乳製品にはタンパク質が多く、タンパク質も健康的な脳を作るための大切な材料になります。


しかし、多く摂りすぎると、ホモシステインというアミノ酸の濃度を高めます。


このホモシステインも脳にダメージを与えます。


ホモシステインが多くなると、アルツハイマー病にかかるリスクが高くなることが知られているのです。


Brigham and Women’s Hospital の研究者が、どんな脂肪を摂っているか、45歳以上の6183人の女性にアンケートで答えてもらうかたちで4年間にわたる認知力テストを行っています。


その結果、「飽和脂肪酸」を多く消費している女性は、「飽和脂肪酸」をほとんど消費しない女性と比べ、グローバル認知機能、言語記憶などの記憶力など、脳の働きがよくない結果になっています。


問題はあくまで量です。


肉や乳製品が過多になっていたら、その摂取量を減らし、もっと、オメガ3や一価不飽和脂肪酸などの「脳を健康にする脂肪」を増やせばよいのです。


トランス脂肪酸の害


photo credit: akahawkeyefan GASTRONOMICAL PARADISE via photopin
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脳のために避けた方がよい脂肪の代表が、トランス脂肪酸です。


トランス脂肪酸は、野菜油に水素を添加することで、油の流動性を保ちつつ、長期保存できるようにした、不自然な脂肪酸です。


主に、ドーナッツなどのフライ食品、チップスなどのジャンクフード、マーガリン、ショートニングなどに多く含まれています。


飽和脂肪酸と同じように、細胞膜を硬くし、シナプスでの神経伝達物質のやり取りがうまくできなくなる脂肪です。


それだけでなく、細胞膜からDHAを追い出し、取って代わろうとする働きがあり、神経細胞に炎症をもたらしたり、血管を傷つけたりする作用があります。


健康的な脳を作るには、できるだけ避けたほうがよい脂肪酸といえるでしょう。

脳によい脂肪、悪い脂肪 矢印の左側に行くほど、脳によい脂肪になる
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矢印の左側に行くほど、脳によい脂肪になる